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分かり合えない美術の話

私の本名には、親が「絵がうまく描けるように」と願いを込めた文字が入っている。別に我が家は芸術一家でもなんでもない、サラリーマン家庭である。
しかしながら子どもの頃から親を含め周りから絵が上手いと言われたことはなく、ご覧の通りなのだが創作が好きだったので下手の横好きで絵というか、イラストを描いていた。

高校進学時、私の母校は芸術(音楽・美術・書道)は選択制であった。私は迷わず第一希望を音楽にした。歌うことが好きだったし、必要な道具が既に持っているアルトリコーダーだけだったからだ。第二希望は書道。別に好きではなかったが、習字道具を既に持っているため第二希望に入れておいた。

なのに、それなのに。
私は美術クラスに入れられるのである。

高い画材(ガッシュとポスターカラー、パレット、筆、謎の棒…など)を新たに買う羽目になった。私が出したわけじゃなかったけれど、親がお金を出すことにうるさかったのだ。
私は同じ境遇の友人を探したが、みな美術を進んで選んだ人たちばかりであった。当然、絵が上手いし、絵を描くのが好きだという人ばかりだ。机に向かわずに済むという理由で美術の時間は好きだったけれども、授業は楽しくなかった。

最初は静物デッサン、それから読書感想ポスター。何とか描いてみるものの、下手だし、楽しくない。しかし周りの人たちは楽しんでいる上に上手い。よく見て、の言葉だけ掛けられるが、見ている。どうすればよくなるのかもわからない。ポスターにしても私は色彩センスが無いので、元々の微妙な下絵にセンスの欠けたカラーが塗られていくのである。私も見たくない、周りも反応に困る。ひたすら負の生産である。例えば画家や画法を覚えるなどの筆記試験であればそれなりに得点を取れていたのだが、実技での評価は散々だった。

その中で、2回だけそれぞれ別の教師からべた褒めされたことがあった。
1つ目は、丸皿に絵付けをする授業。2つ目は五感を絵で表す授業。

もう静物デッサン、読書感想ポスターと散々な評価と経験をした私は美術の授業が嫌いになっていた。
そこで私はウケを狙いに行くことにし、丸皿に描くお題に「ウツボカズラ」を選んだ。それでも根は真面目なので()植物図鑑を持ち込み、一生懸命見ながら描いた。色のセンスもないので出来うる限り再現した色で、白い丸皿に二つの並ぶウツボカズラを描いてやった。
(はは、ウケる)
周りは何を描いていただろうか、よく覚えていないけれどとにかく真面目なクラスだったのでウツボカズラは浮いていた。

こんなんだった気がする

と思っていたら教師に絶賛された(当時の美術担当は落ち着いた話し方の控えめな印象のある女性の教師だった)。
なぜ題材がこれなのかと聞かれ、ウケ狙いでとは言えず好きだからと言ってしまった。ウツボカズラが好きな女の誕生である。
しかし、その作品のおかげで学期の評価はAだった、その前の学期はCだったのに(ちなみにウツボカズラの丸皿を親にも見せたが一様に首を傾げていたので、私の家族に芸術家の血は流れていない)。

2年時に、新しい美術教師が赴任してきた。奈良美智が好きな、母校の雰囲気とは少し違う教師だった。基礎的なことはほとんどせず、割と自由な雰囲気があったように思う。その彼から出されたテーマが、五感を絵で表現する、だった。

涼しさを表現した。

突然閃いた、それしか言いようがない。とにかく思いついたので描いていたら、普段私の横は素通りのその教師が足を止め声を掛け、すごく褒めてくれた。正直私は戸惑った。

「ここ、もう少し太いラインで縁取った方がいいよ」
アドバイスのまま、手を加え、クラスで一番早く仕上がった(2色しか使ってないからね)。

教師の前で説明を求められ、
「シーブリーズとかアクエリアスとかあぁいうパキッとした涼しさを…」
最後は言葉に詰まってしまう。私だってはっきりと言語化して描いた訳じゃないのだ、思いついたから描いただけで。

だが教師は、私の無意識の意図まで汲み取ったらしい。しきりに頷いていた。本当にものすごく褒めてくれ、その作品の評価はAにプラスが2個ついていた。学期の評価もAだった。
しかし余った時間を使って、狙って描いたものには首を傾げられた。

この経験から、私は美術の道を完全に諦めたのだった。
私は美術がわからない。


だけど褒められたのは今だに嬉しいのでサイトのアイコンにしました。2色だから再現も容易だね!